ピート追憶


《  金色の太陽 U  》


「ねぇ、ピートの眼の色ってきれいだね」

スペングラーと砂漠を歩いて3日目の、あたり一面が夕焼けに染まるころ、沈んでいく夕日を眺めながらスペングラーがそう言った。

「...そうか?まぁ...珍しい色だろうな、薄橙なんて」

太陽のまぶしさに眼を細めながら私は返す。

「平原の夕空みたいだね。砂漠とは違ったやさしいオレンジ色」

夕日まぶしいなぁーと言いながら、スペングラーは空をあおぐ。
平原の夕空か...と、私も空を見た。

「スペングラーの眼の色は、砂漠の太陽みたいだな。堂々としている、というか」

琥珀とは違った、輝くような金の眼。
白っぽく、神々しい光を放つ砂漠の太陽は、それとよく似ている、と思った。
スペングラーは眼をぱちぱちさせて、ひとこと、

「そうか...ピートにはそう見えるのかぁ...」

と言った。


その夜、私たちは丸い岩の陰で、火を囲んで座っていた。
ジェラワットの夜は、涼しくて過ごしやすい。他の砂漠では氷点下になったりするのに、ここの砂漠はそこまで気温が落ちないようだった。
ちらちらと揺れる火をただ眺めていたら、まるでぼんやりしている私を驚かさないようにそうっと、

「ねぇピート、僕さっき、ピートの眼の色きれいっていったじゃない?」

と、やわらかな砂に落書きをしながらスペングラーが話し始めた。

「あのね、ピートが砂漠に来る1ヶ月くらい前まで、ほんのちょっとの間だけど、僕、狩人とここを歩いたんだ」

ホルバインっていう若い人なんだけど、と続ける。

「その人の眼もすごくきれいな色だったの。天気がいい日の森みたいな、優しい緑色だったんだ。
ピートの眼みたいに、見てるだけで安心できるような眼だった。僕がそう言ったら、ホルバインはスペングラーの眼の色もきれいだよって言った。金色に輝く砂漠の太陽みたいだって、ピートと同じように...」

言葉を切って、眼をこする。私は黙っていた。

「ホルバインもピートみたいに、突然砂漠にやってきたんだ。僕たちは偶然出逢って、こんな風に一緒に旅をした。くる日もくる日も砂漠を歩いたよ。ひとりじゃなかったから、どれだけ歩いたって疲れなかったな。ホルバインは僕が異形のモーグリでも全然気にしなくて...話もよく聞いてくれて...まるで...、まるで、ピートみたいな人だったの。ときどき重なって見えるんだ。ピートと一緒に並んで歩いてると、僕はまだホルバインと旅してるんじゃないかって」

ごめん、ピートはピートなのにね、と言って、スペングラーは砂に寝そべった。
私は小さく首をふって、淋しそうに火を見つめているスペングラーを見た。
ホルバインが初めて、異種の自分を受け入れた人だったのなら、そんな風に思っても仕方がないと思う。生まれてからずっとひとりだった、この子の運命を考えれば...。

「ずっと2人で旅したい、そう思ったけど、僕たちはいろいろあって別れなきゃいけなかったんだ。ホルバインと別れる時は笑って別れたよ。僕はホルバインについて砂漠を出ようかと思ったんだけど、ホルバインが砂漠にいろって言ったんだ。この砂漠にいればひとりじゃないって。金色の太陽がついていてくれるって。だから僕はずっとここにいたんだ。ほかに行くあても無かったから...」

スペングラーは眼を閉じた。

「ピートがこの砂漠に来てくれてよかった...ホルバインの他にも、僕を受け入れてくれる人がいるなんて、眼の色怖がらずに砂漠の太陽みたいだって言ってくれる人がいるなんて、思わなかったよ...」

声がどんどん小さくなる。スペングラーは眠ったようだった。
私はしばらく火をみつめていた。
ひとりでいることがどんなに不安で怖いことなのかっていうのは、私もよく分かっている。だけど置いていかれたほうは、どんな気持ちになるんだろう?
ホルバインと別れて淋しかった、なんて言わなくても、今のスペングラーはすごく淋しそうだった。
じゃあ今...私と一緒に逃げてきて、途中で別れてしまったエメットは、スペングラーと同じような気持ちでいるんだろうか。
スペングラーを残して砂漠を去ったホルバインは... どんな 思いで ...


小さな煙を上げて火が消え、あたりは真っ暗になった。
なんだかはっきりしないものを頭の中に残して、私は座った体勢のまま、いつまでも眠れないでいた。





to be continued...