ラウル追憶




《   ゆきの花   》






朝、カーテンを開けて一言。

「あらま〜いっぱい積もったねーーー」


「・・・なんだよ、そのババくさい話し方」
「おっエメットが起きてる!!え?ババくさい??違うよージジくさいだよ」
「・・・なんでもいいよ」
「そうかーエメットが早起きだから、雨を通り越して雪が降ったんだ!」
「・・・な訳あるかよ・・・。何でお前って・・・朝からそんなに元気なの・・・」
「なんでかね〜。エネルギーモリモリ!!!・・・なんでエメットってさ、朝は声がハスキーなの??」
「・・・知らん・・・。俺もともとハスキーじゃん。・・・どれくらい積もってんの」
「それはモリモリです」


変な会話のあと、僕は部屋を見回した。
ルテチア峠のふもとの、小さな宿の部屋。
エメットとは昨日、それぞれの派遣クエストの帰りに偶然出会った。
2人しかいない狭い部屋でも、雪がいっぱい降った朝はすごく寒い。

「寒いよ〜〜僕、凍る勢い〜〜」
「ストーブ点けろよ、そこにあるだろ。・・・お前、ほんとう寒いの弱いよな」
「エメットが強すぎるんだよ〜〜・・・ガタガタ」
「俺は寒い街の出身らしいからな・・・でも暑いのはすっごい無理。干上がる」
「雪山よりは砂漠のほうがいいなぁ〜」


ストーブ点けろよ、と言いながらストーブを点けてくれたエメットは、あくびをして再びベッドに倒れこむと、
「俺たちさ、ミルフィクランに入る前、この辺来たよな」
と言った。
僕はちょっとびっくりして、
「うん・・・。うん・・・来た・・・。もしかして・・・エメット、見張り塔のこと覚えてる?」
と聞いた。
「・・・覚えてる・・・。あれって本当に見張り塔だったのかなぁ」
「えーエメット覚えてたんだ!!すごい!!イエーィ」
「なんだよその・・・俺がいかにも記憶力ありませんみたいな・・・」
「ちがうよ〜!覚えてくれてたらいいなぁって思ってたんだよ」


僕は窓から離れて、ストーブの近くに座った。


3年か4年前の話だけど、そのころ2人で旅をしていた僕たちは、確かにこの辺に来たことがあった。
たび重なるモンスターとのエンゲージに、雪山に慣れない僕は何度かついて行けなくてあっさりと倒され、
代わりにエメットはいっぱい怪我して傷ついた。
峠を越えてやっと辿り着いたのは、森の中の小さな宿で、
疲れきった僕たちは意識もはっきりしないままそこへ泊まった。
次の日の朝、外は雪が積もって静かで、ときどき樹から雪がこぼれる音が聞こえるだけだった。
僕はそのとき、部屋にエメットがいない事にも気付かずに、ぼーっとしながら窓の外を眺めていた。
しばらくして帰ってきたエメットはとっても寒そうで、でもなんだかいつもの冷め切った表情じゃなくて、一息つくと僕に言った。
「ちょっと・・・来て」
このころは、今と比べたらエメットは全然口数が少なくて、こんな風に言われた事はなかった。
だからこのときも、僕はやっぱりちょっとびっくりして、どこに行くのか解らないエメットの後をついていった。

葉に雪がどっさりと乗って重そうな樹の下をどこまでも行くと、そこには樹の無い小さな広場があった。
エメットが立っている広場の真ん中には、ところどころ崩れかけた、白くて高い塔があった。
「うわぁ・・・これ・・・なんだろう・・・」
「昨日、眠れなくて・・・今朝早く、この辺ずっと歩いてたら、見つけた」
「そっかぁ・・・」
「この塔の上まで来てほしいんだ。上るよ。来て」

塔にそのまま刻まれた白い階段を、エメットはさっさと、僕はこわごわ上っていく。
「・・・大丈夫。見た目より、この階段、かなり丈夫」
エメットは少し先で振り返り、そう言って、僕が追いつくまで待っていた。

高い塔の上に辿り着くと、そこも真っ白で、それが微かな日の光にあたって輝いているようだった。
「きれいだね・・・僕、高い所すきなんだ」
「そう?何の塔なのかは解らないけど、結構遠くまで見えるよ。・・・ほとんど森だけど」
「おー・・・あっ、あれが昨日降りてきた峠かな??」
「・・・・・・・・方向的に・・・あれじゃなくてあっちの峠だと思うな・・・」
僕たちはそれからしばらく、古い塔のへりに座って、遠くの景色を見ながら話した。
5本全部折ってしまった包帯ぐるぐる巻きの左手を、エメットが暖めていたのをよく覚えている。
ルテチア峠のふもとにあった、森の中の白い塔。
もしまだあったら、また行けるだろうか。


部屋の中があったかくなってきた。
エメットは寝転んだまま、半眼を開けてストーブの火を見てる。
「・・・エメット・・・あれ、まだあるかな」
「だれも壊そうとしないよ、あんなの」
「また行ける?ここからでも行ける距離にあるかな?」
「行ける行ける。行けるし、あるだろ」
何の迷いも無いように言い放ったエメットは立ち上がり、
「行ってみるか?」
と言った。


葉に雪がどっさりと乗って重そうな樹の下を、僕たちは歩いていく。
「ねー・・・エメット、どこにあるか解ってるの??」
「どうだろうな・・・」
「えっ・・・。まぁいいか・・・。ところであの塔さ、あれからちょっと調べたんだけど」
「ふーん。何の塔だった?やっぱり見張り塔?」
「そうみたい〜。何かある塔なのかも!って思ったんだけど、200年くらい前の古ーーい見張り塔だって」
「200年くらい前か・・・そのころこの辺も荒れてたんだろうな。じゃああの塔、いろんなとこにありそうだな・・・」
「でもあんまり綺麗には残ってないと思うよ。エメットが見つけたやつよりさ。ところで、本当に辿り着くの??」
「大丈夫だって。多分。・・・致命傷の方向音痴が先頭きって歩くより、かなり保証あるから」
「致命傷の方向音痴〜〜?!それ僕のことでしょ〜!!ひどい〜〜!エメットだって野生のカンのくせに〜」
「わかったから。・・・あぁほら、こっちで合ってただろ。ちゃんと着いたじゃんか」
「あ〜〜本当だ〜〜!!白い塔だ〜!!すごーい!!速いし・・・さすが野生」


樹の無い広場に立つ、白い見張り塔。
あの日エメットについていって見たときから、何の変わりも無いようだった。
階段の刻まれた位置から、他に存在している見張り塔ではなく、本当にあの日上った見張り塔らしい。
建っている方角から見ても間違いないだろうと、エメットは言った。


塔の上。同じだった。白いものが、日の光にあたって光っている。
「・・・俺さ、あのとき言い忘れてたんだけど、この光っているやつ、雪山に咲く花なんだ」
エメットはそう言って、足元で光っている花をすくいとった。
「えっ、花だったんだ・・・。あ、本当だ・・・ふわふわした花びらだ〜かわいい〜」
「珍しい花なんだけど・・・この塔の上にはずいぶん咲いてるな」
「きっと環境が良いんだって、この塔の上は」
「・・・意味わかんねーぞ・・・」


塔のへりに、並んで座った。今日僕たちは、遠くに少し霞んで見える峠を越えて、クランに帰る。
見えた景色は、4年前と変わることなく、ずいぶんと遠くの森まで見ることが出来た。
何もかもがまっしろで、時間が止まってしまったような塔の上。
どこまでもどこまでも、遠くの街を見ることが出来るような気がした。






END